広聴の基礎知識

広聴の研究

広報の本質はデータの分析から新たな知見や価値を見つけ、あらたな政策(施策・事業)に活かす、または改善に活用することです。広聴において分析は重要な手続きですが、分析をする前にいま手元にあるデータがどのような手法で入手されたのかを意識することが大切です。手元にあるデータが、ある目的のために多くのリソースを使って集めたデータなのか、またはただ単に偶然に集まったデータなのか。形式的には同じに見えても、質的にみれば当然それらは異なるものです。データの収集、分析、知見の発見といった広聴のプロセスにおいてまずデータソースを考えることが大切になります。

広聴の分類とデータの特徴

  能動的活動 受動的活動
実務上の分類 調査広聴 個別広聴 集団広聴
手法 世論調査、意識調査、ウェブ調査 面談、手紙、はがき、電話、メール、SNSなど 対話集会、意見交換会、懇談会など
情報の性質 集めるデータ
提示した問題群に対する意見構造や分布
集まるデータ
個別的な意見・要望・批判
データ形式 主に数値データ、一部テキストデータ 主にテキストデータ
最近の動向 情報の質の低下 情報量の増加
問題点 調査票の制約 意見の個別性・代表性

集まるデータ
窓口、電話、はがき、メール、SNSなどによって集まったデータ。問い合わせ、苦情、意見、感想など多様内容をもつデータ
SNSにより大量のデータが集まるが、その活用はさらなる検討が必要

集めたデータ
世論調査、ウェブ調査によって収集したデータ。分析を視野にいれてある一定の意図をもって収集したデータ
ウェブ調査では、回答者がどのように選ばれているかを確認する必要がある

調査広聴〈社会調査〉

多くの自治体では定期的に世論調査や意識調査を実施しています。また、総合計画をはじめ、隔週の計画策定において調査は定番の手法です。調査そのもは、委託事業者が担当することになりますが、その活用にあたっては自治体職員が社会調査の基礎知識を持っていることが重要です。

他方、自治体議会の議員も社会調査の基礎知識が必要です。これは議会には行政を監視することが求められているからです。議員は執行部が行った政策づくりの根拠となった調査結果に対してどれだけ信頼性があるのかをチェックすることが必要です。実効性あるチェックを行うためには必然的に専門知識が求められます。また、最近では、議会が独自に調査を実施する例も見られますの、その点においても議員が社会調査の知識を持つことが期待されます。

以下では、社会調査の基礎知識を説明します。

調査広聴の品質と母集団・標本

以前、1都3県(東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県)の市区町村の世論調査の実施状況を調査を行いました。それによると 人口10万人以上の自治体の約85%が世論・意識調査を実施しているということが明らかになりました。

  1. 母集団と標本の関係
  2. 対応分析(コレスポンデンス分析)による政策課題の抽出(事例1)
  3. 対応分析による議会広報媒体の抽出(事例2)

1.母集団と標本の関係

(1) 母集団から標本を抽出するイメージ

何度も繰り返し行われた調査で得られた標本平均の平均値の分布を考えます。たとえば、調査を1000回実施したときには、1000個の標本平均を得られることになります。この1000個の標本平均の平均値が重要です。 この値が調査者が知りたい母集団の平均値(真値)に近づくということになります。

(2) 母集団・サンプリングの枠組み

統計の考え方の基本は「母集団からのサンプリング、観測、統計的推論というサイクルを繰り返す」という枠組みを前提にしていることです。上の図にはひとつのサイクルを描いていますが、実はこの調査が何度も繰り返し行われている世界を想定しています。各回の調査で得られた測定値はばらつきます。この測定値のばらつき(分布)を考えることが重要です。

しかしながら、現実には調査は1回しかできません(手元にあるのは1回の調査で得られた測定値のみです)。このひとつの測定値をもって母集団の特性を推論しようと考えるところがキーです。手元にある数値は母集団の真値にぴったり合っているかもしれないし、そうでないかもしれないのです。上でみたように、この手元にあるひとつの測定値を単なる数値とみるのではなく、“数多く行われた調査のなかのひとつの測定値である”と認識する必要があります。ここから誤差の議論につながります。

調査報告書には、以下のような誤差の計算式が記述されていますが、これは1回の調査で得られた測定値をひとつの数値ではなく、誤差をともなった数値であることを示しています。

関連情報

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2.対応分析(コレスポンデンス分析)による政策課題の抽出(事例1)

自治体が行う世論調査では、しばしば政策項目×評価項目の調査項目を見かけます。得られた結果については、政策項目別の満足層と不満層の割合やその時系列変化などの分析が中心です。ときどき、得られたカテゴリカルデータ(数量としては収集されていないデータ)に数値を割り当て(たとえば、「とても満足している」5点、「満足している」4点など)て分析をする報告書も見られます。

ここでは、得られたカテゴリカルデータにつき対応分析による分析例を示したいと思います。

対応分析(Correspondence Analysis)は、カテゴリカルデータを数量化する手法です。クロス表の行と列に対して数量化を施し、それを同時布置することで対象の構造を明らかにしていくというものです。

分析事例

以下の事例は、公開されている某自治体の世論調査の結果である。

1 分割表

以下は、18項目の調査項目×評価項目(「満足」「どちらかといえば満足」「どちらかといえば不満」「不満」)の分割表

画像 18項目の調査項目×評価項目のクロス表
2 対応分析の結果と同時布置図
画像 同時布置図
3 固有値と累積寄与率
固有値の合計
4 考察

多くの調査報告書では、政策項目別(今回の事例では18項目)に「満足層」(満足・やや満足)と「不満層」(不満・やや不満)の割合を算出して、時系列で増加・減少の傾向が報告されています。ここで行った対応分析では、この分析結果に加えて、各政策項目と評価尺度を同時布置図として描くことによって、どの項目が住民満足度が高い項目なのか、またどの項目を優先的に解決すべき問題であるかを視覚化することができます。

  • 原点から左側が「満足」に近い項目、右側が「不満」に近い項目を確認できます
  • 「満足」の周辺には、「公園・水辺の整備」「緑化の推進」などの項目を確認できます
  • 「不満」の周辺には、「地域の治安・安全性」「街のバリアフリー」「災害への備え」などの項目を確認できます

    この自治体の調査結果からは、「地域の治安・安全性」「街のバリアフリー」「災害への備え」が政策課題として抽出することができました。

3.対応分析による議会広報媒体の抽出(事例2)

次に、自治体議会が独自に実施した調査をとりあげます。最近では、議会改革の進展にともなって独自の調査を行う議会も見られるようになってきています。ただし、行政が行う調査の回収率と比較するとかなり低くなっているというのが現状です。自治体議会の独自調査においては、調べた限りでは回収率のほとんどが30%台でした。

回収率が低いとなぜ問題なのか

回収率が低いということは、当初予定していた計画標本(母集団からの無作為抽出)からズレてしまっている可能性が高いからです。つまり、回収標本が母集団の縮図ではなく偏ったものになっているということです。1回の調査で得られる測定値は一つです。その測定値を誤差の幅をもって解釈するといことは上で述べました。この誤差の噺とは別に、低い回収率では得られた測定値そのものへの信頼性が低いということです。これは誤差の議論とは別の話しになります。あまりに回収率が低いと誤差の議論は意味がなくなってしまいます。

以下の事例は、公開されている某自治体議会の世論調査の結果である。

分析事例
1 調査票

「区議会の活動状況は、どのようにして知りますか。」(複数回答可)

2 分割表
自治体議会が実施した調査結果のクロス表

(クリックで拡大)

3 対応分析の結果と同時布置図
画像 同時布置図

(クリックで拡大)

4 考察

男性20・30歳は、議会広報媒体をほとんど利用していませんが、女性20・30歳は、議会個人のホームページから情報を得ているようです。他方、男性60・70歳においては、「議員の活動レポート」によって情報を得ている人が多い傾向がみてとれます。この選択肢からは、活動レポートが議会発行のものなのか、議員個人のものなのかは読み取ることはできません。この議会レポートに関しては、さらに調査を進めていくことが考えられます。

  • 「男性80歳~」および「女性80歳~」にはほとんど回答が空欄のため分析から除外しました
  • 「議会インターネット中継」もほとんど回答がないため分析から除外しました
  • 男性60・70歳においては、「議員の活動レポート」によって情報を得ている人が多い傾向がみてとれます
  • 男性20・30歳においては、「知る機会がほとんどない」が多くなっています。議会に関連する媒体との接触がないと考えられます。
  • 議会だよりは、多くの世代でも読まれている媒体となっています。

個別広聴・集団広聴〈市民の声の分析〉

自治体広聴に関する論文・レポート

  • 「市民の声の戦略的活用に関する一考察-自治体広聴研究の課題と展開-」『公共コミュニケーション研究』第3巻 第1号,2018,公共コミュニケーション学会.(全文ダウンロードできます
  • 「自治体議会の広聴活動に関する一考察-自治体議会に対する市民の声のテキストマイニング分析-」『公共コミュニケーション研究』第2巻 第1号,2017,公共コミュニケーション学会.(全文ダウンロードできます
  • 「テキストマイニングによる「市民の声」の分析-自治体世論調査における自由記述データを事例にして-」自治体学会誌『自治体学』28(2),2015,自治体学会.
  • 「地方自治体の世論調査の品質に関する一考察」『都市社会研究』創刊号,2009,せたがや自治政策研究所.
  • 「地方自治体におけるCRMアプローチに関する研究」『地域問題研究』(70),2006,社団法人地域問題研究所.

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  • 自治体の職員および議員の方を対象にした広報広聴に関する研修を行っています。研修内容および料金についてはこちらをご覧ください。
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    ・新規採用職員や広報課配属職員が広報広聴の基本知識を学ぶ
    ・世論調査の分析をもう少し工夫したい(調査会社に何を要望すればよいのか・・・)
    ・議会だよりをもう少し読みやすくしたい(議会だよりのクリニック)
    ・市民の声の分析方法(テキストマイニング)
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