広聴の研究

広聴の研究

分析手法がどんなに進化しても、分析対象とする(手元にある)データから必ずしも新たな知見を得ることができるわけではない。 分析しようとするデータがどのような経緯を経て手元にあるかを事前に考えることは不可欠である。一定の目的のもとに集めたデータなのか、ただ単に偶然集まったデータなのか。外見上は同じに見えても、それらは質的に異なるものである。広聴活動においても情報ソースを常に考えることが大切である。

行政広聴のフレームワーク

受動的活動
<住民が主体>
能動的活動
<自治体が主体>
実務上の分類 個別広聴 集団広聴 調査広聴
手法 面談、手紙、はがき、電話、メールなど 対話集会、意見交換会、懇談会など 世論調査、意識調査、ウェブ調査
情報の性質 集まるデータ
個別的な意見・要望・批判
集めるデータ
提示した問題群に対する意見構造や分布
データ形式 主にテキストデータ 主に数値データ、一部テキストデータ
傾向 情報の量の増加 情報の質の低下
問題点 意見の個別性・代表制 調査票の制約

集まるデータ
窓口、電話、はがき、メールなどによって収集したデータ。問い合わせ、苦情、意見、感想など多様内容をもつデータ

集めたデータ
世論調査、ウェブ調査によって収集したデータ。分析を視野にいれてある一定の意図をもって収集したデータ

市民の声の研究

世論調査の研究

世論調査や意識調査はほとんど自治体において実施されている。

世論調査の品質と母集団・標本

品質の高い自治体世論調査

以前、1都3県(東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県)の市区町村の世論調査の実施状況を調査したときには、 人口10万人以上の自治体の約85%が世論・意識調査を実施しているという結果だった。

地方分権の進展、少子高齢化、情報化、住民の価値観やライフスタイルの多様化など市民の声(意見・要望・批判など)に基づいた政策形成はこれまで以上に要請されている。ウェブ調査やeモニター、SNSなど市民の声を集める手法が多様化するなかで伝統的な手法のひとつが世論調査である。 統計手法に基づく世論調査とはいえ、この手法にも批判がないわけではない。しかし、住民の意見の分布や構造を知るための手法として自治体が継続して実施できる方法である。自治体が主体となって行う世論調査は、他の研究機関や企業と比較してもサンプリングや回収率においても、高い品質が期待できるからである。

母集団と標本の関係

母集団から標本を抽出するイメージ

画像 標本抽出のイメージ

(クリックで拡大)

ここで重要なことは、統計の考え方の基本は「母集団からのサンプリング、観測、統計的推論というサイクルを繰り返す」という枠組みを前提にしていることだ。図中にはひとつのサイクルしか描いてないが、 実はこの調査が何度も繰り返し行われている世界を想定している。当然、各回の調査の測定値はばらつくが、その測定値の分布を考えることが重要である(これが“標本分布”)。

各回の調査における標本平均の平均値の分布を考える。つまり、この調査を1000回実施したときには、1000個の標本平均がある。この平均値が重要となる。 この分布の平均が母集団の平均値(真値)に近づくということになる。これが母集団と標本の関係の理解の基本である。

しかしながら、現実には調査は1回しかできない(通常は一つの測定値しか手元にない)。このひとつの測定値をもって母集団の特性を推論しようと考えるところがキーである。 したがって、測定値自体を単なる数値とみるのではなく、“数多くの調査のなかのひとつの測定値である”と認識する必要がある(=変動の幅をもっている)。ここから誤差の議論につながる。この統計の独特の考え方を理解すれば、世論調査の報告書に誤差の計算式が掲載されていることが納得できるであろう。

関連情報

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対応分析(コレスポンデンス分析)による政策課題の抽出(事例1)

自治体世論調査では、しばしば政策項目×評価項目の調査項目を見かける。この結果の分析方法として政策項目別の満足層と不満層の比率やその時系列の変化などの分析は行われているが、対応分析はほとんどなされていない。

対応分析(Correspondence Analysis)は、カテゴリカルデータ(数量としては収集されていないデータ)を数量化する手法であり、半世紀以上の歴史をもつ分析手法である(コレスポンデンス分析ともいう)。対応分析は、クロス表の行と列に対して数量化を施し、それを同時布置することで対象の構造を明らかにしていくという方法である。

個人的には、自治体世論調査の結果の分析手法のひとつとして対応分析が定着してもよいのではないかと考えている。同時布置図による見える化はかなり有効である。結果のクロス表だけをみて、その傾向や特徴を見出すことは難しいからだ。

分析事例

下の事例は、公開されている某自治体の世論調査の結果である。

分割表

以下は、18項目の調査項目×評価項目(「満足」「どちらかといえば満足」「どちらかといえば不満」「不満」)の分割表

画像 18項目の調査項目×評価項目のクロス表

対応分析の結果と同時布置図
画像 同時布置図
固有値と累積寄与率

固有値の合計

考察

多くの報告書では、政策項目別(今回の事例では18項目)に「満足層」(満足・やや満足)と「不満層」(不満・やや不満)の比率を算出して、時系列で増加・減少の傾向が報告される。今回の対応分析では、この分析結果に加えて、各政策項目と評価尺度を同時布置図として描くことによって、どの項目が住民満足度が高い項目なのか、またどの項目を優先的に解決すべき問題であるかを視覚化することができる。次元1からみて「満足」「どちらかといえば満足」「どちらかといえば不満」「不満」の順序尺度の確認

    • 原点から左側が「満足」に近い項目、右側が「不満」に近い項目を確認
    • 「満足」の周辺には、「公園・水辺の整備」「緑化の推進」などの項目を確認できる
    • 「不満」の周辺には、「地域の治安・安全性」「街のバリアフリー」「災害への備え」などの項目を確認できる

この自治体の市民を対象にした世論調査の結果からは、「地域の治安・安全性」「街のバリアフリー」「災害への備え」が政策課題として抽出できる。

対応分析による議会広報媒体の抽出(事例2)

独自に世論調査を行っている自治体議会はまだまだ少なく、問題も多い。とくに、行政が行う世論調査とは異なり回収率がかなり低くなっている。調べた限りでは、そのほとんどが30%前半であった。この回収率では、結果の解釈もかなり難しいものになる。
下の事例は、公開されている某自治体議会の世論調査の結果である。

分析事例
調査票

「区議会の活動状況は、どのようにして知りますか。(複数回答可)

分割表

自治体議会が実施した調査結果のクロス表

(クリックで拡大)

対応分析の結果と同時布置図

画像 同時布置図

(クリックで拡大)

考察

男性20・30歳は、議会広報媒体をほとんど利用していないが、女性20・30歳は、議会個人のホームページから情報を得ているようだ。他方、男性60・70歳においては、「議員の活動レポート」によって情報を得ている人が多い傾向がみてとれる。この活動レポートが議会発行のものか、議員個人のものかは、この調査報告書からは読み取ることはできないが、この議会レポートに関して、さらに詳細な仮説をつくり、次の調査を進めていくことが考えられる。

  • 「男性80歳~」および「女性80歳~」にはほとんど回答が空欄のため分析から除外した
  • 「議会インターネット中継」もほとんど回答がないため分析から除外
  • 男性60・70歳においては、「議員の活動レポート」によって情報を得ている人が多い傾向がみてとれる
  • 男性20・30歳においては、「知る機会がほとんどない」
  • 議会だよりや区議会ホームページについては、どの世代においても見られている平均的な媒体となっている。ただし、回答頻度には大きな違いがある。

自治体広聴に関する論文・レポート

  • 「市民の声の戦略的活用に関する一考察-自治体広聴研究の課題と展開-」『公共コミュニケーション研究』第3巻 第1号,2018,公共コミュニケーション学会.(全文ダウンロードできます
  • 「自治体議会の広聴活動に関する一考察-自治体議会に対する市民の声のテキストマイニング分析-」『公共コミュニケーション研究』第2巻 第1号,2017,公共コミュニケーション学会.(全文ダウンロードできます
  • 「テキストマイニングによる「市民の声」の分析-自治体世論調査における自由記述データを事例にして-」自治体学会誌『自治体学』28(2),2015,自治体学会.
  • 「地方自治体の世論調査の品質に関する一考察」『都市社会研究』創刊号,2009,せたがや自治政策研究所.
  • 「地方自治体におけるCRMアプローチに関する研究」『地域問題研究』(70),2006,社団法人地域問題研究所.

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  • 自治体の職員および議員の方を対象にした広報広聴に関する研修を行っています。研修内容および料金についてはこちらをご覧ください。
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    ・新規採用職員や広報課配属職員が広報広聴の基本知識を学ぶ
    ・世論調査の分析をもう少し工夫したい(調査会社に何を要望すればよいのか・・・)
    ・議会だよりをもう少し読みやすくしたい(議会だよりのクリニック)
    ・市民の声の分析方法(テキストマイニング)
    ・ウェブサイトをもう少し使いやすくしたい

 

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