市民の声のテキストマイニング分析(事例研究)

市民の声のテキストマイニング分析(事例研究)

市民の声(テキストデータ)分析の現状

自治体は戦後半世紀以上にわたり様々な手法を活用して市民の声を聴く努力を行ってきた。しかし、自治体の広聴活動は行政施策に特段の影響をもたらすことなく、 首長や行政の「聴く姿勢」をアピールすることにとどまり,世論調査や住民意識調査も政策形成や行政評価に活用されていないとの批判もなされてきた。自治体において地域の課題発見に結びつく可能性のある市民の声の重要性は認識されているものの、市民の声への迅速な対応処理に追われ、データベース化された市民の声システムも対応の進行管理や定量的な分類分析が中心となっている。
自治体が公表する『市民の声報告書』においてもテキストデータの分類分析が中心であり、そこでは一定の政策・施策体系表があり、市民の声の内容からその体系表に基づいて分類されている。
市民の声の個別性や代表性の問題,政策課題抽出に伴う困難性、抽出過程における恣意的判断が常に問われ,市民の声の分析方法や政策への活用方法が確立しているとはいえない。 個々の市民の声から政策形成に有用な知見が必ず得られるわけではないが,市民の声を無視した政策形成はありえず,多様性・多義性を持つ市民の声の分析は多くの自治体にとって重要な課題になっている。

参考文献

上野征洋(2000)「自治体広報広聴の現状と課題-変化から新たな時代の展望へ-」『判例地方自治』(202),ぎょうせい.
仙台都市総合研究機構(2003)『「市民の声」の活用法に関する調査研究』2003SURF研究報告.

テキストマイニングとは、一般的には自然言語処理やデータマイニングなど多様な技術を組み合わせた複合技術であると言われている。計算機科学、言語学、統計学をはじめ多方面の研究領域からのアプローチが試みられている。 テキストマイニングソフトウェアは、高額なツールからエクセルをベースにした無料のツールまでいろいろある。

分析事例

これは、公共コミュニケーション学会『公共コミュニケーション研究』(学会誌・創刊号)に掲載された「『市民の声』の政策形成への活用に関する一考察」中で行った分析である。

▶公共コミュニケーション学会 発表資料(2016年1月30日,日比谷図書文化館)
市民の声のテキストマイニング分析_発表資料.pdf

【分析対象とした調査】

  • 無作為抽出
  • 対象2000人(回収率70%以上) 男性47.6% 女性52.4%
  • 自由記述回答「自分が住む自治体の改善してほしい点について」(記入率= 全体の44.3%)

関連情報

世論調査分析のページ(事例1:世論調査分析による政策課題の抽出)

【テキストデータの分析】

  • 出現頻度が「1」以上(全構成要素数):23,992(語)
  • 異なり構成要素数:3,875(語)
  • 異なり構成要素率:3,875÷23,992=16.2(%)
    ※異なり構成要素率は、回答者が記述した語句の重複の程度を示す1つの指標と考えられ、この値が大きいほど同じ語句が繰り返し使われたことになる

ここでは、分析対象として出現頻度が「5」以上の語句(98語)を選択した。

特徴的な語句

「子ども」107回 「自転車」93回 「災害対策」88回 「バス」75回 「交通ルール」73回・「リサイクル」「呼び込み」「防犯カメラ」5回・「学力」「景観」6回

98語×年齢(7階級)のクロス表の分析

固有値の数は、K=min{98語、7階級}-1=6(個)まで得られる。累積寄与率から、はじめの2成分で全情報(総変動)の約50.8%を占める。

【考察】

自治体が実施する意識調査や世論調査では、自由回答形式で意見をきくことが多くみられる。しかし、その報告書では、自由回答の内容から政策項目別の分類分析にとどまっている。ここでは、回答者の属性情報とテキスト情報を分析することにより、年代別の改善項目を視覚化することができた。20~30歳代においては子育て関連の言葉が多く、60歳代以上では福祉関係の言葉が多くみられる。また、多くの世代で、生活環境に関わる言葉がみられ、とくに30~50代においては、防犯対策に関する言葉が見られる。もちろん、頻出言葉が改善点とは限らないが、その言葉に関連する論点が提起されていると考えられる。

このような年代別の特徴ある言葉を抽出したあとで、これらをキーワードにしながら、原文(もとの自由記述)を追っていくことによって、テキストデータから意味ある情報を抽出することができる。

参考文献
  • 上野征洋(2000)「自治体広報広聴の現状と課題-変化から新たな時代の展望へ-」『判例地方自治』(202),ぎょうせい.
  • 仙台都市総合研究機構(2003)『「市民の声」の活用法に関する調査研究』2003SURF研究報告.
  • 近藤田津(2003)「市民の声を市政に活かすためのIT活用の研究」『行政&ADP』7月号,行政情報システム研究所.
  • 那須川哲哉(2006)『テキストマイニングを使う技術/作る技術』東京電機大学出版会.
  • 菰田文男,那須川哲也(2014)『ビッグデータを活かす技術戦略としてのテキストマイニング』中央経済社.

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