広報の基礎知識

自治体の広報広聴活動

戦後の日本の民主化をすすめるために広報広聴活動は導入されました。本来的に情報発信のみならず、情報収集を含むもので、自治体と市民との関係構築を目的とするものです。日本では長い間、広報重視、広聴軽視の傾向が続いてきました。予算額でいえば圧倒的に広報費が広聴費を上回っています。

自治体広報といえば行政広報を対象に議論されてきましたが、昨今では議会改革の文脈のなかで自治体議会による広報広聴活動が活発に議論されるようになってきました。

一般的に「広報」という用語は、“広報”と“広聴”の両方の意味をもちますが、文脈においては広聴を含むか否かが明確でない場合も少なくありません。今後は、明確にわけて論じることが必要です。

区分 執行機関 議事機関
広報 行政広報 議会広報
広聴 行政広聴 議会広聴

自治体の広報広聴の概念と基本フレームワーク

広報広聴の定義

自治体の広報広聴活動は「一定の理念にしたがいながら、価値の創造と循環によって自治体と市民との関係を戦略的かつ継続的に構築・維持することを目的とする活動」と定義できます。ここでの一定の理念とは、真実性、双方向性、網羅性、並行性、戦略性の5つをいいます。

さまざまな定義

井出嘉憲
「行政体の内と外とを有機的に関連づけ、様々な環境諸要素が絡みあう行政のダイナミックスのなかで、『統合の再生産』を保証することを目指す、高度の行政機能」(市民と行政の相互交流における同意の循環)
小山栄三
「(1)その目的が民衆の信頼および協力を得ようとするものであり、(2)このために政府の政策、サービス、活動に関するインフォメーションを国民に流すものであり、(3)それが効果をあげるためには民衆の意向や可能なまたは真実の反応を知って施策に反映させることが必要であり、(4)そのためには専門の部局を設けて企画的に継続的におこなわなければならない」
今川晃
「新たな行政や政治を生み出す、“創造の循環過程”でもある。言いかえれば、『市民のコンセンサス』を導きだし、それを基準として政策形成や執行に影響を与える、きわめて政治的な過程である」
本田弘
「住民と行政体当局との間に最良の関係を設定し、これを継続的に維持すること」

基本フレームワーク

自治体広報広聴活動の目的は自治体と住民との関係構築です。ここでの関係構築には多様なものが含まれています。たとえば、認知、関心、理解、共感、納得、信頼、参加、批判、反発などさまざまなレベルの関係です。ただ、いずれのレベルの関係構築であっても、自治体が情報を伝えるとともに、きちんと住民の声を聴くという基本的な活動があってのことです。地域住民にとって価値あるものを伝えることであり、住民の声から価値のある施策、事業をつくっていく。多元的なコミュニケーションによる関係構築が広報広聴の活動になります。

理念的には執行機関と議事機関がそれぞれ主体となって広報広聴活動を実践することになるので、地域社会にはそれぞれの主体がつくった価値が循環することになります。

画像 自治体広報広聴の基本フレームワーク
自治体広報広聴の基本フレームワーク

ウェブサイト

行政ウェブサイトの特徴

行政のウェブサイトに対して「使いやすい」という評価はあまり多くはありません。この評価の背景には行政ウェブサイトの情報が多岐にわたり、その一つひとつを詳細に掲載しているからだと思います。情報量が少なければ使いづらくはならないでしょう。基礎自治体であっても、1万ページを超える規模になっていると聞きます。あらゆる年代、あらゆる分野をカバーする行政サービスの情報を掲載しているということは、利用者からみれば自分と関係のない(必要としない)情報が大量に掲載されているということです。自分とは関係のない情報があるから、必要な情報を探しづらくなるのは当然ともいえます。つまり、行政ウェブサイトには、その情報量が充実すればするほど、使いづらくなるというジレンマが生じる可能性があります。ただ「情報量が多いから使いづらいのは仕方がない」とはいえません。

行政ウェブサイトの評価

  目的 品質 評価の視点
ウェブサイトの品質 情報の提供と収集 情報品質 公共サービス情報
政策情報
利用品質 ウェブアクセシビリティ
ウェブユーザビリティ

ここでは、行政ウェブサイトの評価の枠組みを示しました。この枠組みでは、サイトの品質を情報品質(quality of contents)と利用品質(quality in use)から考えています。厳密な評価を行うためには、具体的な評価項目や点数化など詳細な評価シートが必要になると思います。ただ、それを全ページに対して行うことはかなりのリソースが必要です。

情報品質(quality of contents)を定期的にチェック

公共サービス情報や政策情報をどこまで公開することが望ましいのでしょうか。ウェブサイト担当部署と各担当部署とのディスカッションにより、編集方針・ルールを作成することが必要でしょう。この掲載ルールがないと、分野ごとに情報の粒度が異なってしまいます。詳しい説明がある分野がある一方で、非常に浅い、薄い記述しかない分野ができてしまいます。これを意識することによって、情報自体の量・質が揃ってくると思います。また、情報をいつまで掲載しておくかという点も重要です。ウェブサイトには行政情報のアーカイブ的な役割も担っている部分があります。このあたりも分野ごとのルールが必要です。

利用品質(quality in use)を定期的にチェック

ウェブアクセシビリティに関しては、総務省からチェックツールが公開されています。ウェブサイト担当者は意識していることだと思います。いくつかのベンダーもチェックツールを提供しているので、それを利用するのもひとつの選択肢です。他方、ウェブユーザビリティに関しては、担当者が意識していても、なかなか対応が難しいというのが現状ではないでしょうか。膨大なページ数を抱える行政ウェブサイトのユーザビリティ評価を外部に委託すれば多額の経費がかかってしまいます。しかし、ユーザビリティをチェックしないとPDCAも中途半端になってしまうおそれがあります。ユーザビリティ評価の手法は様々な研究があるので、現場レベルで導入しやすい手法を活用すればよいと思います。

行政ウェブサイトの改善(事例)

いまやウェブサイトは自治体広報の中心媒体となっています。多くの人は、わからないことは、まず「検索」するという行動をとります。言い換えれば多くの人が接触する媒体がホームページです。ホームページの使いやすさは自治体広報全体の評価にも大きく影響する問題といえます。利用者からすれば、地域の行政サービスは自治体ウェブサイトにしか掲載されていない独自の情報ですので、自治体ウェブサイト以外の選択肢はほとんどありません。

ウェブサイトの改善はどのように進められているのでしょうか。ウェブサイトの担当者は毎日、新たなページの作成や既存ページの更新作業に追われ、なかなかサイト全体の改善にリソースを投入することができない状況にあるのではないでしょうか。少ないリソースのなかで、いかにサイトの品質改善を継続的に行っていくかは大きな課題です。サイトの品質改善を外部の事業者に委託できるリソースがあればよいのですが、現実にはなかなか難しい問題です。

ウェブサイトの品質改善手法、とくに上で述べたウェブユーザビリティの改善手法はいろいろありますが、現場レベルで低コストで実践できる手法として「ペルソナ法」が有効だと思います。この手法は、人間中心設計(UCD:User Centered Design)の理念をもとに、仮想的なユーザ(ペルソナ)をデザインし、そのユーザの利用シーンを想定して製品・サービス開発を進めるというものです。プロダクト・デザインの領域において活用され、最近では企業の製品開発、マーケティング戦略、大学教育の分野にも広がってきています。ウェブサイトの設計にも適用され、その有効性が報告されています。

ペルソナの作成自体を外部事業者に委託することもできますが、それには当然経費がかかります。ペルソナ自体を職員が作成すれば安上がりです。ユーザを仮想的に作り、その人物の立場に立って常に考え、サイトの検証を進めるということです。担当者が変わったとしても継続的に実践可能な手法だと思います。

以下は過去に実践した事例です。

ペルソナ作成と品質改善への活用

ペルソナ作成
  • ウェブ調査によるサイトの課題の抽出・利用者の属性の把握
  • アクセスログ解析(閲覧数の多いコンテンツ、検索されたキーワード(内部・外部検索サイト)
  • 外部情報の分析(総務省『通信利用動向調査』、NHK放送文化研究所『生活時間調査』)
  • インタビュー調査(4名・半構造化面接)によるパラメータの設定
  • ペルソナの作成
メリットとデメリット

ペルソナを使ったテスト結果を、ウェブサイト担当者と所管課職員がさまざまな観点からの議論が可能です。より効率的な議論、より深い議論が可能になり、コンセンサスが得られやすい。他方、ペルソナ自体を作成するためにはインタビューを含め、かなりの時間と労力を要します。ただし、ペルソナ作成時から所管課職員にかかわってもらえば現実的かつ具体的なペルソナを作成することができると思います。自治体の過去の意識調査や統計データや外部の公開データもうまく活用したい。

参考文献
  • 秋本芳伸,岡田泰子,ラリス資子訳,persona0design.net運営事務局監訳(2007)『ペルソナ戦略 マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする』ダイヤモンド社.
  • 棚橋弘季(2008)『ペルソナ作って、それからどうするの?ユーザー中心デザインで作るWebサイト』ソフトバンククリエイティブ株式会社.
  • 山形浩生訳(2000)『コンピュータは、むずかしすぎて使えない!』翔泳社.

自治体広報に関する論文・レポート

  • 「信頼関係の構築を目的とする広報広聴」『ソーシャルネットワーク時代の自治体広報』(河井孝仁編,2016,ぎょうせい)
  • 「自治体における信頼関係構築の脆弱性に関する一考察-横浜市「広報よこはま(放射線特集号)」を事例として-」『広報研究』第20号,2016,日本広報学会.
  • 「行政広報広聴の基礎的枠組みに関する一考察」『公共政策志林』第3号,2015,法政大学大学院公共政策研究科.
  • 「自治体ウェブサイトにおけるペルソナの作成と活用」『政策情報学会誌』第6巻 第1号,2012,政策情報学会.
  • 「地方自治体ウェブサイトの品質に関する一考察」『政策情報学会誌』第4巻 第1号,2010,政策情報学会.
  • 「地方公共団体における広報紙への広告に関する一考察」『行政管理研究』(121),2008,財団法人行政管理研究センター.
  • 「地方自治体における広告事業の現状と課題」(共同執筆)『平成18年度研究報告書 自主財源確保方策』2007,千葉県自治研修センター.

広報広聴に関連する研修講師をお受けしています

  • 自治体の職員および議員の方を対象にした広報広聴に関する研修を行っています。研修内容および料金についてはこちらをご覧ください。
  • 自治体職員としての実務経験アカデミックな視点をまじえた研修を心がけています。
  • こんなときにお役に立てるかもしれません
    ・新規採用職員や広報課配属職員が広報広聴の基本知識を学ぶ
    ・世論調査の分析をもう少し工夫したい(調査会社に何を要望すればよいのか・・・)
    ・議会だよりをもう少し読みやすくしたい(議会だよりのクリニック)
    ・市民の声の分析方法(テキストマイニング)
    ・ウェブサイトをもう少し使いやすくしたい

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