議会広報広聴の研究

議会広報広聴の研究

代表制は「理論的には不可能性を帯びているが、実践的に必要とされているがゆえに、存続している」もので、代表は「本来できないことを世の中の約束事として、そう見なそう、という工夫(からくり)」のうえに成り立っています。したがって、この代表制という仕組みを成り立たせる=有権者がこの仕組みが信頼に足るもの認識するためには、代表として選出された議員が、その不可能性を克服しようとする姿勢を有権者に見せることが不可欠となります。ここに、議会広報広聴が必要とされる理由があります。

いま広がりつつある全国的な自治体議会改革は、代表制が抱える問題に対して議会が真剣に向き合い、合意調達機関としての活動を開始したととらえることができます。議会による広報広聴活動の充実・発展は、議会と住民とのオープンなコミュニケーションを進め、住民への説明責任を果たすと同時に、議会活動の透明性を高めること、代表制が機能していることを示すことになります。

昨今の議会は、広報紙やウェブサイト、議会中継などに取り組み、形式的には広報メニューが充実しています。しかし、実際には議会広報紙は特定の住民にしか読まれていないし、ウェブサイトや議会中継を見ている住民はほとんどいません(※)。議会・議員と地域住民とのコミュニケーション不足は、両者の距離を広げ、信頼関係の構築がますます困難になる状況を生みます。

「議会広報の研修<伝わる議会報(議会広報紙)づくりのためには?>」はこちらをご覧ください。

※「自治体議会の広聴活動に関する一考察(議会広聴に関する研究ノート)」はこちらをご覧ください。

※「議会広報媒体がどの程度利用されているか?」はこちらをご覧ください。

二元代表の一翼を担う議会は市民の代表として、顕在化する市民の声のみならず、潜在的な声も把握していかなければなりません。声の大小にかかわらず市民の意見を把握する努力は義務です。結果として政策に反映できない意見は多いが、意見を知ったうえ反映できなかったことと、知らなかったことは結果としては同じですが、そのプロセスには天と地ほどの差があります。結果だけを見て、議会・議員の活動を評価できない理由はここにあります。だからこそ、議会は広報活動の一層の充実が必要です。

また、市民の代表として、議会独自の立場から市民の声を分析を行うことによって政策形成に有用な情報・知識・価値を創造していかなければ、執行部と対峙することは難しい。首長は独任制であり政策の決定プロセスを見える化することは困難ですが、議会は複数の議員で構成されていることから、政策の決定プロセスを見える化することは可能です。最終的には多数決であるかもしれないが、そこに至るまでの議論(誰がどのようは発言をしたのか、どのような反対意見がでたのか、賛否にはどの程度の差があったのか)を示すことが大切です。

議会基本条例における広報広聴規定

議会広報広聴に関する研究は、議会広報が自治体広報の範疇のなかで論議の対象から除外されてきた(本田,1995)との指摘のとおり、 1990年代まで議会広報広聴に関する本格的な議論がほとんど行われてきていません。2000年代の半ばから始まった議会基本条例の中心にしたに議会改革を機に議会広報広聴が本格的に注目されるようになりました。議会基本条例には議会による広報広聴活動が具体的に規定されはじめています(議会基本条例を策定している自治体議会は、「変えなきゃ!議会 自治体議会改革フォーラム」ウェブサイト において随時更新)。

これまで議会広報広聴の理論的根拠は、「普通地方公共団体の議会の会議は、これを公開する」(地方自治法115条)という「議会の会議公開の原則の充実発展」(加藤,1971)に求められてきました。しかし、昨今の自治体議会改革のなかで策定された多くの議会基本条例において、議会が積極的に広報広聴活動を行うことが具体的に規定され、議会広報広聴の根拠を議会基本条例に求めることができるようになってきています。条例に規定されたということは、地域住民との約束であり、今後選挙によって議員が入れ替わったとしても、議会は継続的に広報広聴活動を行うことを意味するものです。議会による広報広聴の条例化は地域住民にとっても意味があります。もちろん、条例が守られることが前提ですが、実行しなければ条例違反になることから、議会は自らの責任において広報広聴活動を展開することが期待されることになります。ただし、その規定の多くは“努力規定”であり、どの程度の活動をするか否かは今後の課題でもあります。

議会・議員評価

議会改革のなかであらためて注目される議会・議員評価を議会広報広聴の観点から見ると、議会の活動が市民に見えないということに尽きると思います。一部の地方議員が行った政務活動費の不正使用や不適切な発言が、地方議会全体の信頼低下につながっています。議会や議員の活動がわからないから、一部メディアの報道が大きな影響を及ぼすことになります。今こそ、議会は議会の活動をきちんと市民に伝える努力をしなければなりません。そもそも、議会・議員を評価しようとしても、情報がなければ評価しようがありません(※)。
※議会・議員評価についてはこちらをご覧ください。

議会広報広聴に関する文献

  • 浪江虔(1961)『広報革命-自治体の姿勢と広報の姿勢-』良書普及会.
  • 浪江虔(1969)『自治体広報の実際-前進のキイポイント-』現代ジャーナリズム出版会.
  • 加藤富子(1971)『行政広報管理』第一法規出版.
  • 本田弘(1974)「広報・広聴と議会」『都市問題』65(12),東京市政調査会.
  • 中村紀一(1976)「広報と広聴」辻清明編『行政学講座3行政の過程』東京大学出版会.
  • 三浦恵次(1986)『地方自治体の広報活動 住民参加のすすめと行政の対応』総合労働研究所.
  • 中村紀一(1993)「地方議会の公開と広報」西尾勝,岩崎忠夫編『地方政治と議会』ぎょうせい.
  • 本田弘(1995)『行政広報-その確立と展開-』サンワコーポレーション.

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    ・ウェブサイトをもう少し使いやすくしたい
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