一般社団法人 自治体広報広聴研究所

広報広聴の研究と職員・議員研修

自治体議会の広聴活動に関する論文・研究ノートの概要

自治体議会の広聴活動に関する一考察

「自治体議会の広聴活動に関する一考察-自治体議会に対する市民の声のテキストマイニング分析-」『公共コミュニケーション研究』第2巻 第1号,2017,公共コミュニケーション学会.(全文ダウンロードできます

概要

本稿では、議会の広聴活動の枠組みを示すとともに,議会が主体となって実施した調査によって収集された自由記述データ(二つの世論調査を取りあげる)に対して,統計手法および自然言語処理やデータマイニングなどの複合技術であるテキストマイニングによる分析を行い,自治体議会に対する市民意識の構造を明らかにしている。

二つの自由記述データの分析結果

X議会に対する自由意見

X議会に対する市民の意見は「市民意見の反映」「議会の不透明な活動」「議員自身の身を切る改革」「議会広報の充実」という四つの意見グループで構成されることが明らかになった。このデータの最も大きな部分を占めている「市民意見の反映」というグループは,議会が市民の意見を反映させること、すなわち議会による広聴活動の拡充を求めている。2番目に大きなグループは議会活動が市民に伝わっていないという意見である。議会議員がどのような活動をしているのかを認知できていないという住民の率直な意見であるといえる。3番目のグループは議員定数や報酬の削減といった意見である。そして,最後のグループは二つ目の「議会の不透明な活動」に関連するものであり,議会活動を市民に伝える議会広報紙やウェブサイトといった広報媒体の拡充を期待するものである。つまり,今回のX議会に対する意見は,議員定数や報酬の削減以上に,議会による広聴活動の拡充を求める意見と議会活動を広く知らせる広報活動の拡充を求める意見が多くの部分を占めているのである。

X議会に対する自由意見に関する主なクラスター
クラスターラベル サイズ(比率) クラスターの特徴
クラスター1

「意見の反映」

475(61%) 「市民」「声」「対話」「反映」という語句に代表されるグループ。

*クラスターサイズが最も大きい

クラスター2

「不透明な活動」

195(25%) 「活動」「内容」「何」「不明」いう語句に代表されるグループ。

*クラスターサイズが2番目に大きい

クラスター3

「身を切る改革」

73(9%) 「定数」「報酬」「削減」という語句に代表されるグループ。
クラスター4

「広報の拡充」

40(5%) 「市議会だより」「ホームページ」「内容」「中継」「充実」という語句に代表されるグループ。
Y議会に対する自由意見

Y議会に対する意見は「市民意見の反映」「身を切る改革」「市政への無関心」という三つの意見グループで構成されることが明らかになった。Y議会においても「市民意見の反映」という広聴活動の拡充が最も大きな部分を占めている。2番目のグループの議員定数や報酬の削減といった意見はX議会と同様である。3番目のグループは市政に対して関心がないという意見である。これは相対的に少数意見ではあるが,住民の議会に対する疎隔感を示すものであり,Y議会の存在意義にかかわる重要な問題であると考えられる。

Y議会に対する自由意見に関する主なクラスター
クラスターラベル サイズ(比率) クラスターの特徴
クラスター1

「意見の反映」

105(77%) 「市民」「意見」「調査」という語句に代表されるグループ。

*クラスターサイズが最も大きい

クラスター2

「身を切る改革」

24(18%) 「定数」「報酬」「税金」という語句に代表されるグループ。

*クラスターサイズが2番目に大きい

クラスター3

「市政に無関心」

7(5%) 「市議」「市政」「関心」といった語句に代表されるグループ。
テキストマイニング分析の意義

今後,議会報告会や意見交換会など議会による広聴活動の整備が進むとともに,議会が得られる市民の声は増加することが予想される。しかし,大量の市民の声データが手に入ったとしても,それをいかに分析し,活用していくかが大きな課題である。市民の声を集めることだけが広聴活動の目的ではない。それを分析し,市民理解や政策提案に活用することが重要である。テキストマイニング分析から得られる結果をどのように評価するかはわからないが,従来の分類分析に加えて,新たな分析を検討する時期にきていると思う。

 

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